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名は体を現す [ひとりごと]

 久々に母校のそばまで行ってきました。なんとなく雨模様の武蔵野の姿に、変わったところ、変わらないところに一々目を留めながら、バスに揺られて、中近東文化センターに着きました。

 今日は、9月に行われたミュンヘン・コンクールで3位入賞した弦楽四重奏団が、ここで行われている美術館コンサートで演奏します。

 実は、今日は「コンクール入賞者コンサート」がだぶっていて、文化会館小ホールでは、以前一緒にお仕事をして、このまま素直に伸びていってほしいなあ、と思っていたフルーティストも演奏していました。こちらも誘われたけれど、誘われた順番が先だった方にいくことにしました(後先ってのは、難しい判断をしなければならないときの、重要なポイントですって、アンジェラも書いているし)。

 若い弦楽四重奏団が世に出てくるときに、みんな悩んだり困ったりするのが、団体の名前。かのラサールQの命名の理由は、仕事のオファーを受けたメンバーのひとりが、街角の公衆電話で主催者と連絡をしていて、「いますぐ名前を決めてくれ!」といわれ、困って咄嗟に目の前にあった銀行の名前を言ったのが、そのまま定着してしまった…これって、一種の「都市伝説」かもしれませんが、冗談で「ペンギン」とつけて、そのあまりに意表を突いた名前ゆえ、改名しても、チラシに「元・ペンギン」と書かれてしまう団体もありますから、咄嗟でも、熟考のあげくでも、名前は大事です。

 ところで、今日のグループは「ウェールズ」という名前でした。あら、イギリスのWalesから取ったんだと思いました。イギリスの皇太子のことを、プリンス・オブ・ウェールズ、と言いますよね。へえ、誰か留学でもしてたのかな、それともウェールズの独特の文化や文学を愛しているメンバーでもいるのかな…そういえば、この地域名は、まだ誰も使ってなかたから、結構いい選択をしたなあ…。

 後半が始まるところで、主催者の方がインタビューする時間があり、名前の由来が披露されました。

 「ラテン語で、真実、本物という意味です」

 へ?…今日の会場の隣にある大学で過ごした4年間、あまりできのいい学生ではありませんでしたが、専攻の関係でラテン語をやっていたおばさんは、一瞬頭がくらくら。だったら、綴りはverusになる(といっても、これは形容詞なので、いろんな格変化をします)はず。一応古典学徒の読み方をすれば、「ウェルス」になります。ラテン語は各国語で発音が微妙に異なることがあるので、何が正しい読み方かと言われると、いろいろ困ってしまいますが、とりあえず、ラテン語が日常会話に引用される文化はない日本語では、ローマ時代の発音に近い(別にタイムマシンに乗って調べにいったわけではありませんが)読み方というのがあります。教科書などでローマ時代の皇帝の名前を表記する場合は、これに従っています。ですから、シェイクスピアの作品では、「ジュリアス・シーザー」ですが、教科書には「ユリウス・カエサル」になっています。
 なので、あれれ…誰か、日本人でラテン語を知っている人に相談したのかな…ちょっと、恥ずかしいな…と思った次第。

 なんでこんなことを長々と書いたかといいますと…

 アンサンブルの名前をつけるとき、みんなでいろいろなアイディアを持ち寄ると思いますが、決めた後には、必ず、
 1.それは何語か
 2.現地での発音、および日本語での慣用的発音
 3.意味
を、しっかり確認しましょう。主催者には、必ず由来を尋ねられますし、プロフィールやチラシにも書くことになります。それが、その団体の出自や結成のエピソードと結びつくこともありますから、まさに「名は体を現す」のです。

 そして、聴衆の中には、今日の私のような人が必ずいると思うこと。ラテン語ではなくて、サンスクリット語の権威もいるかもしれないし、コンピューター用語のプロがいるかもしれない。
 一つの名前を名乗って世の中に出ていくということは、今まで自分たちの周囲の、先生や友人、肉親といった「自分のことをよく知っている人たち」だけの世界から出て行って、自分のことを全く知らない人たちの間で勝負していくことなのです。
 そういう他人が最初に自分のことを知ってくれるのは「名前」。
 この第一印象は、そのアンサンブルの印象を決めてしまうことだってあるのです。

 そして、世の中は、想像を絶するほど広い。あなたの知らないことを知っている人たちの方が遙かに多いわけで、自分がよく知らない領域のことを一生かけて命をかけて(ちょうどあなたにとっての音楽がそうであるように)やっている人たちがたくさんいます。そんな中に出ていくとき、自分のグループの名前がきちんとしているかをちゃんと確認しておく慎重さは必要です。うっかりミスは、世の中に出ていく前に洗い出して、つぶしておきましょう。わからないことは、ちゃんと専門家に聞いて確かめておきましょう。

 いつか、この弦楽四重奏団も、誰かが気づいて、あるいは、誰か近くの人が気づいてあげて、正しい読み方で出てくることを期待しています(このことが気になって、後半のベートーヴェン、なんだか味気なくなってしまったし…)。ただ、もうこの名前であちこち露出しているようなので、いっそ、元の綴りの方を音に合わせて、Walesにしてしまう、という方法もありますね。
 名前は大事。その名前が流布してしまってからでは、遅いこともありますから。


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